硬派の宿命

船戸与一の“満州国演義”シリーズの第八巻『南冥の雫』には、とても怖い言葉が引用されています。

「王よりも王派」

権力者の関心を買おうとした者たちが、その権力者よりも過激な態度を取ることを指しています。

これが歪であることは論を俟ちません。しかも、それが戦争に関することであるなら、その先には悲劇しかありません。

人の命を消耗品という数としか認識しない傲慢は、泥沼という言葉すら生ぬるい地獄絵図を生み出します。

ビジョンを持たない者は精神力に頼るしかなく、物量の差を精神力で挽回できるという発想は常人のものではありません。

その狂った世界を、戦争という言葉では表現しきれません。もっと直截に言えば良いのです。人間同士の殺し合いと。

ある男の死。それが戦場で銃弾に倒れるのでもなく、戦って散るのでもなく、飢えと病気による“弊死”であることに、この戦争の虚しさが凝縮されていると思います。

舞台から去るのが硬派の宿命。しかし……。そこに物語もなければ、神話にもならない無為の死。

船戸与一の怒りの激烈さに、感想を書く手が震えます。

南冥の雫 満州国演義8 (満州国演義 8)

南冥の雫 満州国演義8 (満州国演義 8)