『天皇と東大』その三

天皇と東大』では、たくさんの○○主義が登場します。思想に関しては、まさに百花繚乱。治安維持法によって理不尽という言葉では足りないくらいの取り締まりと弾圧があったとしても、それらが「寂として声もなし」という状態ではなかったことに驚きます。もちろん、それが、私が想像することもできない恐怖との戦いであり、自らの信念に殉じて悔いなしという志があってのことであることは論を俟ちません。

私は、大学においては、思想的な問題は論争によって昇華されるものと思っていましたが、実際には左翼にしろ右翼にしろ、大きな組織があって影響力を持ち、教授も学生も深く関わっていたことに驚きました。

それらの活動に携わっていた学生たちが卒業し、官僚になって国家を運営していくのですから、その権力組織が複雑怪奇になるのは当然です。しかし、あれこれ面倒でも、その多様性こそが大切なのであり、組織が一つの思想に凝り固まったときの機能不全は目を覆うばかりということを、私たちは知っています。

天皇と東大〈3〉特攻と玉砕 (文春文庫)

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