勇気を称えます

働いていれば、誰でも一度は口にしたことがあるであろう、ステレオタイプのセリフ。「泥を被るのは、いつも現場だ」。

現場に無理を強い、個人の我慢を当てにする(あるいは当然視する)。

その方法論(とも呼べない無為無策)が限界に達したのだろうと思います。

しかし、それをシステムの問題、制度疲労と捉えてはいけません。あくまでも、どこまでも、それは人間の問題であり、この国で暮らす私たち自身の問題です。

企業において、その不正、不祥事を告発した者は、組織の裏切り者として処断されます。

その勇気が報われる社会であってほしいと、切に願います。

「柔道女子日本代表の園田隆二前監督の暴力行為などを告発した女子選手15人の代理人を務める辻口信良弁護士(大阪弁護士会)らが4日、大阪市内で記者会見を開き、選手側の声明文を公表した。

 ◇発表された選手たちの声明

 皆様へ

 このたび、私たち15人の行動により、皆様をお騒がせする結果となっておりますこと、また2020年東京オリンピック招致活動に少なからず影響を生じさせておりますこと、まずもっておわび申し上げます。私たちがJOCに対して園田前監督の暴力行為やハラスメントの被害実態を告発した経過について述べさせていただきます。

 私たちは、これまで全日本柔道連盟全柔連)の一員として、所属先の学校や企業における指導のもと、全柔連をはじめ柔道関係者の皆様の支援をいただきながら柔道を続けてきました。このような立場にありながら、私たちが全柔連やJOCに対して訴え出ざるを得なくなってしまったのは、憧れであったナショナルチームの状況への失望と怒りが原因でした。

 指導の名の下に、または指導とはほど遠い形で、園田前監督によって行われた暴力行為やハラスメントにより、私たちは心身ともに深く傷つきました。人としての誇りをけがされたことに対し、ある者は涙し、ある者は疲れ果て、またチームメートが苦しむ姿を見せつけられることで、監督の存在におびえながら試合や練習をする自分の存在に気付きました。代表選手・強化選手としての責任を果たさなければという思いと、各所属先などで培ってきた柔道精神からは大きくかけ離れた現実との間で、自問自答を繰り返し、悩み続けてきました。

 ロンドン五輪の代表選手発表に象徴されるように、互いにライバルとして切磋琢磨(せっさたくま)し励まし合ってきた選手相互間の敬意と尊厳をあえて踏みにじるような連盟役員や強化体制陣の方針にも、失望し強く憤りを感じました。

 今回の行動を取るに当たっても、大きな苦悩と恐怖がありました。私たちが訴え出ることで、お世話になった所属先や恩師、その他関係者の皆様方、家族にも多大な影響が出るのではないか、今後、自分たちは柔道選手としての道を奪われてしまうのではないか、私たちが愛し人生をかけてきた柔道そのものが大きなダメージを受け、壊れてしまうのではないかと、何度も深く悩み続けてきました。

 決死の思いで、未来の代表選手・強化選手や、未来の女子柔道のために立ち上がった後、その苦しみはさらに深まりました。私たちの声は全柔連の内部では聞き入れられることなく封殺されました。その後、JOCに駆け込む形で告発するに至りましたが、学校内での体罰問題が社会問題となる中、依然、私たちの声は十分には拾い上げられることはありませんでした。一連の報道で、ようやく皆様にご理解をいただき事態が動くに至ったのです。

 このような経過を経て、前監督は責任を取って辞任されました。

 前監督による暴力行為やハラスメントは、決して許されるものではありません。私たちは、柔道をはじめとする全てのスポーツにおいて、暴力やハラスメントが入り込むことに、断固として反対します。

 しかし、一連の前監督の行為を含め、なぜ指導を受ける私たち選手が傷つき、苦悩する状況が続いたのか、なぜ指導者側に選手の声が届かなかったのか、選手、監督・コーチ、役員間でのコミュニケーションや信頼関係が決定的に崩壊していた原因と責任が問われなければならないと考えています。前強化委員会委員長をはじめとする強化体制やその他連盟の組織体制の問題点が明らかにされないまま、ひとり前監督の責任という形をもって、今回の問題解決が図られることは、決して私たちの真意ではありません。

 今後行われる調査では、私たち選手のみならず、コーチ陣の先生方の苦悩の声も丁寧に聞き取っていただきたいと思います。暴力や体罰の防止はもちろんのこと、世界の頂点を目指す競技者にとって、またスポーツを楽しみ、愛する者にとって、苦しみや悩みの声を安心して届けられる体制や仕組み作りに生かしていただけることを心から強く望んでいます。

 競技者が安心して競技に打ち込める環境が整備されてこそ、真の意味でスポーツ精神が社会に理解され、2020年のオリンピックを開くにふさわしいスポーツ文化が根付いた日本になるものと信じています。

 2013年2月4日

 公益財団法人全日本柔道連盟女子ナショナルチーム国際強化選手15人」