『日本近代史』

明治維新によって、日本は近代国家の道を歩み始めました。そこには浪漫の香りがあります。そして、明治維新の立役者は元勲と呼ばれ、紙幣の肖像画が象徴するように、偉大な人物とされます。

まず、その一般に流布する人物像が実際の姿とは違うことが多々あることに驚きました。

私たちは、この時代の人々を小説や映画、ドラマで知ります。しかし、多くの資料が残っていることもあって、それらがフィクションであることをいつしか忘れ、そこで描かれる姿が真実のものであると錯覚します。

それは正しい歴史認識を妨げ、真実を歪めます。

一般に、富国強兵政策によって日本は国力をつけ、他のアジアの国々のような欧米諸国による植民地化を免れ、列強の仲間入りを果たしたと云われます。

それは間違いではないでしょうが、その国家運営が、これほどまでに手探りであったとは。正解どころか、問題の設定すら覚束ない様子に愕然としました。そして、それは必然的に対立を生みます。富国強兵すらセットではなく、“富国”と“強兵”に分かれて争っていたのです。

そこには浪漫の欠片もありません。即物的な数の力、政治的暴力のみが機能します。それは、この国の戦後の政治風景と何ら変わりません。

しかし、そこに登場する人物の気概、器には比較できないほど差があります。そこが決定的に違います。

政治家でなければ理想を語っても空理空論、何も実現できないというのであれば、政治とは選挙であり、政治改革とは選挙制度改革でもあります。その政争を繰り返す中で、思想も主義主張も細切れになり、同時に、政治家も軍人も小物化していきます。そうして、人間が本来持つ美徳とも言うべき大きな価値観は消え去り、すべてが流動化し、この国は崩壊へと向かっていきます。

哀しいほどの無力感と虚脱感。

帯には「この国の今を運命づけた80年」とあります。本当に、今を知るために読むべき本だと思います。

日本近代史 (ちくま新書)

日本近代史 (ちくま新書)