忠臣蔵

人口に膾炙している赤穂浪士の義挙の物語は、歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」を基にしています。

その(脚色というよりも)虚飾を排して面白いのが、『薄桜記』の五味康祐の『一刀斎忠臣蔵異聞』(文春文庫・絶版)です。当時の資料、つまり当時の人々の意見や言葉を渉猟して、人物評から事態の推移まで、俗説を一つひとつ正していきます。

そうと疑わずに思い込んでいた“事実”が、説得力を持って引っくり返る快感は、隆慶一郎の作品に通じます。

その隆慶一郎に『時代小説の愉しみ』(講談社文庫)という作品があります。その中に、忠臣蔵を取り上げて、大石内蔵助と、その妻の陸(りく)について語ったエッセイがあります。

「夫婦とは、こんなにも互いを慈しむものなのか」と心が震えた一編です。それは、五味康祐の『薄桜記』に描かれる男女にも通じ、感動がいや増しました。

時代小説の愉しみ (講談社文庫)

時代小説の愉しみ (講談社文庫)