密教美術

上野は東京国立博物館で開催されている「空海密教美術」展に足を運びました。

もの言わぬ仏像が、無言のまま、その表情と佇まいから伝えてくる想い。それは、密教の思想のみならず、製作に携わった当事者たちを含め、そこに何がしかの想いを抱いた数え切れない人々の千年の想いでもあります。

この圧倒的な存在感。

夢枕獏は、大略「日本という国に空海という“呪(しゅ)”がかけられている」と表現します。私も、「この国に空海がいてくれて本当に良かった」と思います。

思わぬ再会もありました。約十五年前、東京は世田谷区の砧公園内の世田谷美術館にて「東寺国宝」展があり、そこで見た曼荼羅が展示されていました。私が右往左往した十五年という時間、曼荼羅は静かに在ったのだと思うと、涙が滲むような感動を覚えました。

立像の多くは、餓鬼などを踏みつけています。そして、厳しい怒りの表情とともに、鎧を身につけています。それは、欲望や煩悩と戦う人間の心を具現化したものです。

今、この時。「自らの心と戦うことを恐れるな」と叱咤してくれているかのようです。

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