村上春樹とハードボイルド
以前、村上春樹がレイモンド・チャンドラーの作品を翻訳したことについて、思うところを記しました。
http://d.hatena.ne.jp/ocelot2009/20091015/1255619982
村上春樹は、『ロング・グッドバイ』のあとがきに、短めの評論と呼ぶべき文章を書いています。その中で、ハードボイルドという言葉を一切使っていません。その代わりに、“いわゆる「非情」系統の文学”という表現をしています。
これを批判する文章を目にしたことがあります。ハードボイルドの否定であると。
しかし、視点を変えると……。
村上春樹は、“ハードボイルド”と“チャンドラリアンの小説”の違いを理解し、自分の文章がハードボイルドを描くものではないと自覚しているからこそ、ハードボイルドというジャンルに対して礼を尽くしたとは考えられないでしょうか。
好意的に過ぎる解釈でしょうが、これも読書の楽しみの一つではあります。