『U.W.F戦史3』読み始め

旧と新生、二つのUWFの最大の違いは何か。それは“エースの存在”です。旧UWFでは、佐山聡がすべての面で牽引役でしたが、藤原喜明木戸修前田日明がいるリング上の戦いにおいては“エース”ではありませんでした。逆に、新生UWFでは、それらすべてを含めて前田日明が“エース”でした。

『U.W.F戦史』は、歴史書として書かれています。著者は、その執筆態度として、(特定の人物の都合に合わせて脚色されることの無いよう)当事者にインタビューせずに、当時の資料のみを渉猟して事実を構築することを宣言しています。

しかし、最終巻の『U.W.F戦史3』において、その禁を自ら破り、前田日明田村潔司にインタビューし、それを下敷きにしています。これには、致し方ない面があります。上記のように前田日明がエースであり、新生UWFは、前田日明UWFだったからです。

絶縁状態にあった船木誠勝と和解したことで、前田日明の中で欠けていた(あの時、何があったのかという)知識が補完され、その前田日明にインタビューすることで作品に一本の芯が通ったことは確かです。しかし、その反作用として、前田日明の主観や解釈が表に出すぎるようにもなりました。

一例を挙げるなら、高田延彦とボブ・バックランドのエピソードです。あそこで前田日明の言葉を載せるなら、当事者に、特にバックランドに取材してコメントを取るべきです。著者は、ジャーナリストとして、あるいはノンフィクション作家として、甘いと言わざるを得ません。

想像するに、第一巻と第二巻を刊行して、高い評価を得つつも、著者は、その事実誤認や間違った解釈について相当の指摘を受けたのではないでしょうか。その結果、第三巻においてスタンスを変えたのではないでしょうか。

そして、著者は前田日明という稀有な魅力を持つプロレスラーに取り込まれたのだと思います。その磁場から逃げられなくなったのだと思います。

まだ序盤ですので、内容についての言及は避けます。

他の本ではあり得ないくらい、緊張しながらページを繰っています。