主導権争い

初代タイガーマスクの最後の試合は、寺西勇との一戦でした。それは“引退試合”ではありませんでした。人気絶頂の時期であり、その試合も通常のシリーズ最終戦でのタイトルマッチでした。

真夏の国技館。その暑さが伝わってくるような両者の表情です。試合は寺西がタイガーの動きに付き合わず、タイガーの大技を避ける場面を何度も見かけます。また、寺西の攻撃はストマックブロックなど、派手さはないものの地味に厳しいものばかりです。

ダイナマイト・キッドや小林邦明との、観る者を虜にするスイング感溢れる試合とは異質です。

タイガーに勝てないまでも、試合の主導権を握ろうとする寺西の意地と気迫が素晴らしい。主導権争いにおいては、軍配は寺西に上がります。その中でタイガーが、タイガーらしい動き、試合をしようと必死になる姿は、タイガーが作られたヒーローではなく、やはり闘う集団としての新日本プロレスに所属するプロレスラーである証です。

最近の佐山聡初代タイガーマスクについて、「皆が思うほど、飛んだり跳ねたりばかりしていない」と発言しています。それは単にスタイルのことばかりを言っているのではなく、“闘う”あるいは“闘いを表現する”心について語っているのではないかと思います。

寺西勇との試合は、その噛み合わなさが、逆に、タイガーの戦う心を伝えて来ました。

そして、最後のタイガースープレックス。当時から変わらず、私はそれが、佐山からファンへの最後のプレゼントだったと思っています。