マイクパフォーマンス

テレビのプロレス中継を観なくなって久しい中で、現在、新日本プロレス中邑真輔に注目しています。

創業者でありながら触れることがタブー。それが現在の新日本プロレスでのアントニオ猪木の位置付けです。その猪木の名前を出したことで物議を醸し、中邑は新日のリングに大きなうねりを作り出しました。

どんなに否定したところで、新日本プロレスは猪木が作った団体であり、その影から逃れることはできません。その存在を黙殺するのではなく、包含して乗り越えることが出来なかったことに親日の不幸があり、それはそのままプロレス界の不幸になりました。

中邑真輔にプロレスラーとしての商品価値がある以上、今回の行動は肯定されるべきです。しかしながら、昭和の新日本プロレスを観てきた身としては、違和感もあります。

選手が試合後にマイクを使ってコメントを発するようになったのはいつからでしょうか? 私見ですが、UFC-Jの桜庭からではないでしょうか。かつて、アントニオ猪木も、(名勝負数え唄の頃の)藤波辰巳長州力も、(初代)タイガーマスクも、前田日明も、試合後のリング上でマイクを手に取って何かを話すということはありませんでした。ファンは情報が少ない中であれこれ想像しながら、週一回のテレビ放送にかじりついていました。

プロレスに復帰した船木誠勝は試合後に専用のスペースでインタビューを受けることはあっても、リング上では闘う姿を見せるのみで、あれこれ喋ることはありません。

猪木の名前を出した後も、中邑真輔は大一番の試合の後にはマイクを手にして次の対戦相手を指名するなど、観客に対するアピールを怠りません。それが良い悪いではなく、そこまでお膳立てしなければファンはついてこないのか、という疑問が私の中にあるだけです。

かつてPRIDEにおいて、エメリヤーエンコ・ヒョードルとの対戦に向けて精力的に試合を行い、勝ち星を積み重ね、もう一歩のところでアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラに敗れ、そこからまた這い上がったミルコ・クロコップに観客は熱狂し、喝采を送りました。今から思うと、あれは神様が用意したのではないかというくらいの稀有なストーリー展開でした。

本来、あれはプロレスのリングでこそ見られるものでした。現在の総合格闘技において、あれだけのキャラクターもいなければ、“場”そのものもありません。(DREAMにはビジョンがなく、その任ではありません)

だからこそ、今回の中邑真輔の一連の言動には注目しています。彼一人のダンスで終わることなく、更に大きなムーブメントになることを期待しています。