UWFの記憶

旧UWFはその活動の最後の時期、テレビ中継がありました。テレビ東京の「世界のプロレス」という番組の一部がUWFに割り当てられていました。
“あの”タイガーマスクが素顔の佐山聡として戦う姿を観ることができる。雑誌で見る限り、極限まで曖昧さと無駄を排した真剣勝負を。

ある日、テレビの前に陣取り、私は父親に熱弁を振るっていました。「このUWFは本当の真剣勝負なんだ。ロープに振って返ってきたりしないし、反則も場外乱闘も無いんだ」と。

その日放送されたカードはスーパータイガー佐山聡)対藤原喜明UWFが提供できる最高の組み合わせです。

佐山の蹴りと藤原の関節技。新日本プロレス全日本プロレスと比べてライトの光量が足りないためか、薄暗い画面。巧まずも、それが真剣勝負の雰囲気を更に強いものにします。

固唾を飲んで観ていると、思いもよらない衝撃的な場面がブラウン管に映し出されました。何と、佐山の蹴りの凄まじさに、藤原が場外にエスケープしたのです。驚きました。“場外”という概念の無いUWFでそのような動きがあったことに。そして、佐山の蹴りはそれほどまでに威力があるのかと。

このあり得ない場面は、佐山の蹴りの凄さとともに、藤原のプロフェッショナルな佇まいと、それだけの技を繰り出すのだというUWFの真剣勝負論を私に強く印象付けました。現在はこの試合も“プロレス”であったと承知していますが、だからといって、記憶の中の二人の姿が輝きを失うことはありません。