跳ぶ物語
森絵都が描く、スポーツ青春物語。面白くないわけがありません。シリアスとユーモアのバランスも素晴らしい、愛おしくなる作品です。いま、読み終えて本棚に収まっていますが、その背表紙を眺めていると、閉じたページの中で若者たちが元気に飛び込みをしている気配が伝わってくるようです。
この本によると、飛び込み台からジャンプして着水するまでの時間は1.4秒。練習の成果を発揮するのに、何と短い時間でしょう。しかし、時間は相対的なもの。その僅かな時間に、若者たちは自らの生命を目いっぱい燃焼させます。
この跳ぶ競技に着目した作家の慧眼に感服します。その跳ぶという行為が、既に若者の溢れんばかりの生命力そのものです。
この作品の登場人物たちの素晴らしいところは、自分を他者との関係性の輪に置いて自らを認識出来るところです。大切に思える、あるいは自分を大切に思ってくれる他者の存在がエネルギーになって、彼らは飛ぶのです。そのような感性を欠片も持ち合わせない者に、採点競技において他者の胸を打つパフォーマンスは望むべくもありません。
個人的に好きな場面は、物語の終盤、ある二人の選手が言葉を交わすところです。大会や試合で何度も顔を合わせていても、互いにライバルで親しく話したこともない。それでも、同じ競技に打ち込み、同じ想いで跳んでいる彼らは、やはり仲間なのです。だからこそ言える言葉であり、それを受け取ることが出来るのでしょう。
- 作者: 森絵都,影山徹
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2006/05/26
- メディア: 文庫
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