悔い

誰もが、もう一度まったく同じ人生を送りたいかと訊かれたら、否と答えると聞いたことがあります。

悔いばかりの人生です。何かに失敗したこと、もう少し上手くやれればということ。そして、しなかったこと。

しかし、取り返しはつかなくても、やり直すことが出来るのが人生です。そうでなければ、あまりにも救いがありません。

未解決事件を捜査する刑事として、ハリー・ボッシュは自らを「物言わぬ死者の代弁者」と規定しています。そして、その基(もとい)は使命感であり、その行動の原動力は怒りです。

何に対する怒りでしょうか。ひとくちに理不尽な悲劇が起きることへと答えてしまっては、正解ではあってもまだ足りません。

それはボッシュの生い立ちや経歴と密接に結びついています。彼は、事件を追うとき、否応なしに自分自身と向き合う運命にあります。

だからこそ、ボッシュは優秀な刑事であることが出来るのです。そして、それを補強してくれるのが、娘です。

彼女は、父親の生き様に触れるなかで、自分も警察官になりたいと思うようになります。そして、父親がどうして警察官になったのかを知りたいと望みます。

ボッシュは、最愛の娘の心からの問いに対して、はぐらかしたり嘘をついたりすることが出来ません。言えることと言えないこと、自分でも上手く説明出来ないことがあるなかで精いっぱいの説明をします。

その親子のコミュニケーションが、ボッシュを刑事として父親として、そして、男として成長させます。

エンターテインメントとして抜群の面白さを持ちながら、それだけではないシリーズです。