『三四郎』
青春小説の系譜を遡ったとき、たどり着くのが夏目漱石の『三四郎』なのかもしれません。すべてはここから始まった。そんなコピーが思い浮かびます。
文学史や近代小説という視点からの評論は専門家にまかせて、ここはひとつの小説として向き合いたいところです。
主人公の三四郎は田舎から上京してきた大学生。かつての自分と重ねての読書となりました。
三四郎はニュートラルな存在です。彼は物語の主人公として自己主張しません。例えば、将来どのようになりたいのかということを考えません。
まだ何者でもない。それが素晴らしい。
幼いころから将来の夢を見定め、それに向かって努力するのは立派ですが、自分とは何なのか、自分は何者なのかという答えの出ない問いを自らに課すことこそ、若者としての人生に対する誠意です。
また、文章も素晴らしい。巧まずして流麗、贅言を費やすことなく清冽。読んでいて落ち着きます。
有名な「亡びるね」という言葉に代表される、文明、社会、政治、人間に対する批評も鋭く胸に刺さります。
わたしが批評するのもおこがましい、原点にして到達点といえるものです。
- 作者: 夏目漱石
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1948/10/27
- メディア: 文庫
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