ペーパーバック

作家買い五條瑛の作品は、その内容を確認するまでもなく手に取ります。それが『プラチナ・ビーズ』に始まる“鉱物”シリーズの最新刊とあってはなおさらです。

ですので、その『スパイは楽園に戯れる』を予備知識がまったくない状態で読み始めたのですが、これが父親と息子の物語だと気づいたときには参りました。そうとわかっていれば、そのための心構えをして臨んだのにと。

「子供は親の従属物ではなく、個別の人格を持った一人の人間だ」という言説はまったく以て正しいのですが、他人とは違うものであり、やはり親子なのです。

たんに父親と息子の軋轢を描いているのではありません。いくつもの親子が登場しますが、誰もが距離や濃淡に差はあれど、この関係を断ち切ることも、その呪縛から逃れることも出来ません。

この多分に文学的な題材をエンターテインメントとして描いた本作に、著者の「自分が書きたいのはペーパーバック」という言葉を重ねたとき、そもそも、文学という概念それ自体が間違っているのではないかと思ってしまいます。ノーベル文学賞を受賞した作品だって、きっと文学としてではなく小説として書かれ、読者の手に届いたはずです。

スパイは楽園に戯れる

スパイは楽園に戯れる