収奪のシステム

他人を傷つけることを自らに許した者は、自分が傷つけられることも受け入れなくてはいけません。しかし、他人を傷つけることに精神的痛痒を感じない人は、自分が傷つけられることを許しがたい屈辱と受け取ります。

この一方通行の衝突が繰り返される、麻薬戦争。復讐に次ぐ復讐、惨劇の連鎖は止まるところを知りません。

人の欲望を飲み込んで養分とした“状況”がさらなる血を求めているかのように、人々は殺し合います。

そこで良心を持って戦うのは、公的機関の捜査員だけではありません。ジャーナリストもまた、戦っています。

ドン・ウィンズロウの『ザ・カルテル』の冒頭には、麻薬戦争で命を落とした、または行方不明になったジャーナリストたちの名前が列挙されています。そして、下巻の終盤に語られる、ある記者の血を吐くような独白。

この作品の主人公は、特定の人物ではなく麻薬戦争そのものかもしれませんが、銃を持たずに戦う人たちもまた、捜査員や麻薬王に負けず劣らず主要な登場人物です。

カルテルが、ただ麻薬組織だけを指すのではなく、それも含む“収奪のシステム”ならば、それは内容を変えて世のあらゆる場所で構築されています。

それはつまり、わたしたちも戦うことが出来るということです。その意志さえ持てば。