ターン・キー契約
福島第一原子力発電所の事故に対応するのが東京電力という一私企業の社員という実態を目にしたとき、国策としての原子力政策との乖離に首を傾げました。国の、その分野のスペシャリストとも呼ぶべき人材がいないのかと。
いなくて当然です。ターン・キー契約。この言葉を知って、そう思いました。
それは、原子力発電所の施設の設計から設営まですべてをアメリカの企業に任せ、日本側はただキーを回すだけという状態で受け渡されるというもの。
自分たちが扱う代物について何も知らないのであれば、スペシャリストなど端から存在するはずがありません。いるのは現場の作業員だけ。
この空洞を埋める言葉が見つかりません。この事実を前に、原発について何を語れるというのでしょう。核は“神の火”であり、人間が制御できるものではないという議論の遥か手前、そこに加わる資格すらありません。
それでも原子力発電を推進していった人たちの論理は、戦後の復興に電力は不可欠であり、それが不足している状況を改善しなければいけないというものです。
それに対して問いたい。目の前の利益を手に入れることができれば、後々に生じる、それを上回る規模の損失は関知しないという態度は、いまを乗り切ることができなければ未来はないという論理で正当化され得るのかと。
核に関する研究者はいます。しかし、原子力発電所の専門家はいません。両者は似て非なるもの。同一視してはいけません。
その中身のないスカスカな人とモノ。
そう、安全ではないからこそ「安全だ」と叫ぶのです。もし安全なら、殊更にそれを強調する必要はありません。
この欺瞞。それを欺瞞とも思わない厚顔無恥。
原子力発電所が必要か不要かという前に、この国の原子力政策の中身の貧しさを知ったなら、その議論はもっとましなものになるはずです。
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