『杉原千畝』

映画『杉原千畝』を観ました。

まず何よりも、船戸与一の“満州国演義”シリーズを読んでいることが財産になっていることを語りたい。

物語は満州国から始まります。スクリーンに映し出されるその街並みを見て、それだけで胸がいっぱいになりました。船戸与一が命を削って描いた場所。敷島四兄弟が生きた世界。そこは、海を隔てながらも、歴史においては地続きです。決して別の時代の、別の場所の、自分とは関わりのない他人事ではありません。そう思わせてくれたのは、船戸。小説とは、それほどの力を持っているのです。

あの時代を総括することなく、新しい時代が来ることはあり得ません。誰も責任を取らない体質が温存されているなら、これから来る時代は過去の繰り返しに過ぎません。

アニメ『機動戦士Ζガンダム』の最終話で、カミーユ・ビダンは言います。「この戦争で、戦争で死んでいった人たちは、世界が救われると思ったから、死んでいったんです」と。

同じ過ちを繰り返すことこそ、あの戦争で命を落とした人たちへの愚弄です。

1945年8月15日。

山田風太郎は『戦中派不戦日記』で、その日、ひと言だけ書きました。「帝国、敵に屈ス」と。

その日、戦争が終わったのではなく、戦争に負けたのだという認識を語った、素晴らしい映画です。