『シルバー・オクトパシー』

どのような環境で育とうが、どのような場所に身を置いていようが、私の現在(いま)には関係ありません。すべては一個人の私にのみ帰するのであって、それ以外の要素は言い訳に過ぎません。

私は私になったのであり、アナタはアナタになったのです。誰に頼まれたのでもなく、他に仕方なくでもなく、自分の意志で。そこから出発しなければ、何も始まりません。

一人の人間として対峙する。国籍とか出身地とか、年齢とか性別とか、そういう要素を排して、ただただ現在(いま)の自分で向かい合う。自分にも相手にも、それを要求して。

そういう男たちを描いたのが大藪春彦でした。その作家の名を冠した賞を『スリー・アゲーツ』で受賞した五條瑛の新作『シルバー・オクトパシー』は、国というモノすら利用すべき制度に過ぎないと見做した、換言するなら、国(に代表される組織というもの)を個人よりも上位に位置づけたりしない強かな男たち女たちを描いています。

シルバー・オクトパシー (文芸書)

シルバー・オクトパシー (文芸書)