もう一人のミツ

遠藤周作の『私が・棄てた・女』は、物語の焦点となる女性ミツを聖女と捉えました。

西加奈子の『漁港の肉子ちゃん』の“肉子ちゃん”は、ミツのように苦悶しません。あっけらかんと笑い、泣き、また笑います。

音楽でいえば、『私が・棄てた・女』はマイナーコード、『漁港の肉子ちゃん』はメジャーコードという印象です。

肉子ちゃんの娘のキクりん。彼女の諦念と、その裏返しの聡明さ。

母親と娘だからこその物語で、父親と息子では成り立ちません。あるいは、まったく別物にしかなり得ません。

男は、こう言うしかありません。「女は強い」と。眩しいものを見るように目を細めて。