『これ誘拐だよね?』

下品でバカな連中が右往左往する物語です。それを楽しく読めるのは、著者が適度な距離を保った描写に徹して、物語自体が下品にもバカにもなっていないからです。

この作品には、見た目も言動も一般的に変人とされる人物が二人、登場します。しかし、読み進めるうちに、この二人が正常で、社会的地位もある他の多くの人物の方が変だと思えてきます。

このパラドックスに、ジャーナリストの経歴を持つ著者の反骨心が窺えます。

自然破壊や資本主義の矛盾も言及されていますが、それが声高に叫ばれるのではなく、物語に溶け込んでさり気ないのが粋です。小説はこうでなくては。

読んで楽しいということを疎かにしない、素敵な小説です。

これ誘拐だよね? (文春文庫)

これ誘拐だよね? (文春文庫)