『南冥の雫』

『南冥の雫』では、満州国は存在感がありません。描かれる舞台は東南アジアで、ある種の空白地帯の様相を呈しています。

その存在感の無さ、影響力の無さは、満州国が砂上の楼閣であるということを物語っているように思えます。

どのような気高い理想も、それを実現する手段を暴力に頼ったら、その意義は消え去ります、地に堕ちます。

しかし、そこで日々の生活を営んでいた人々がいたことは事実であり、満州国は夢幻ではありません。

その歪みがもたらす悲劇が描かれるであろう第九巻にして最終巻。

このシリーズが完結したら船戸与一は筆を擱くのではないかという、それほどの覚悟を滲ませる作品の最後を、私も強い気持ちで待ちます。

南冥の雫 満州国演義8 (満州国演義 8)

南冥の雫 満州国演義8 (満州国演義 8)