ペーパーバック

自分が書きたいのは文学作品ではなく、ペーパーバック。

五條瑛は、自らの小説家としての立ち位置を明確にしています。それは、文学賞とは無縁の作家人生を全うした大藪春彦の系譜に連なります。その作家が唯一受賞したのが「大藪春彦賞」というのも粋です。

その反骨精神が如実に表れている文章が、最新作の『塔の下』にあります。

嘘八百を並べただけなのに、権威ある機関や人の名を使って、でたらめの数字による表や分析図など付けて良質の紙に美しく印刷すれば、さも本当のことのように思えてくるから不思議だ。」

それを支えているのが、作家としての“読ませる技術”です。物語の展開の中での自然でフェアな情報の提示、伏線の配置と収斂。点と点が結びついて線になる快感。いくつもの線が合流して一本の大きな線になる興奮。

精神と技術の幸せな関係。

決して超大作ではありませんが、無駄のない引き締まった作品です。

塔の下

塔の下