『鷲たちの盟約』

大恐慌の真っ只中で、ルーズベルト大統領が暗殺されていたら……。実際には未遂に終わった事件を“歴史のIF”で書き換えたら、そこに現れるのは歪な異世界です。

ヨーロッパではナチスドイツが快進撃を続け、アメリカではポピュリストの大統領が独裁を敷いています。不況に喘ぐ国民は、いずれナチスアメリカに攻め込んでくることが予想できても、そのナチスと協定を結ぶことで仕事が得られるならと、その存在を認めています。

主人公の刑事、サム・ミラーが殺人事件の捜査の先に見る、歪な異世界を支える醜悪な事実。それは、私たちが生きる、混沌とした現実世界とも繋がっています。

日本において、この大統領と同じ個性を持った政治家が権力を握り、財政再建と“不公平の是正”をスローガンに掲げて、“働けるのに働かない”人たちに対して、この作品で描かれているような施策を行ったら……。おそらく、圧倒的な支持を得られるのではないでしょうか。

そんな嫌な近未来を幻視しながらの読書でした。それは、フィクションながら説得力があるということです。

虚構によって現実を炙り出す。この時代に書かれたということに大きな意味と意義がある作品です。

鷲たちの盟約〈上〉 (新潮文庫)

鷲たちの盟約〈上〉 (新潮文庫)