拳で語り合う

その強さは誰もが認めながらも、面白みに欠けるとも評されるチャンピオンのアンデウソン・シウバと、相手を挑発して注目を集め、試合に向けて雰囲気を盛り上げていくチェール・ソネン。

二人は一度戦い、このまま行けばソネンの判定勝利は間違いないという展開ながら、試合終了の直前、そのときも劣勢にあったシウバがソネンの一瞬の隙を見逃さず三角締めで鮮やかな逆転タップアウト勝利をもぎ取りました。

その二人の再戦。

二人の個性に、前の試合の展開と結果が重なり、UFC史上に残る因縁マッチとして宣伝されました。そして……、

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/fight/other/live/2012/2012070801/index.html

試合後の、互いを称え合う二人。何だかんだで、(この二人に限らず)戦う二人の物語は、このような大団円を迎えるのが王道。皆、それが大好きなんです。そういえば、PRIDEでのケン・シャムロックvsドン・フライも同様でした。

しかしながら、これは極めて稀な成功例です。あらゆる試合が因縁マッチでは、見ている方も疲れますし、飽きます。

MMAにおいてすら、“最強”という言葉は“その競技において”という注釈付きでなければ意味を成しません。それはジャンルが成熟しつつあることの証でもあります。

“最強”とはファンタジーに属するものです。かつて、PRIDEは「60億分の1」というフレーズでファンに夢を与えました。もう、それが出来ないのです。

UFCのヘビー級チャンピオンになって、「やっぱり、この男が“最強”だな」とファンに思わせられるのは、私見ですが、ブロック・レスナー唯一人だと思います。それこそが、誰も手に入れられない彼だけの個性です。

シウバとソネンは、二人の個性を活かした、二人にしかできない“拳で語り合う”試合をしました。

ここで重要なのは“二人にしかできない”という点です。今後、他の選手たちが、相手をより過激に挑発すれば、シウバとソネンが浴びた以上の喝采を手に入れられるということではありません。

観る者を惹きつけ、興味を持続させる。それを怠ればジャンルそのものが衰退し、戦う場そのものが無くなります。技術論に走っては縮小するだけ。わかりやすい因縁物語以外に、どのようなやり方があるのか。

どの業界も大変です。