人に歴史あり

漫画『三丁目の夕日』に「日時計」という回があります。主人公は二十代の女性。厳格な両親に内緒の恋人がいます。その男性は天文学を学ぶ大学の研究員。目覚まし時計が壊れてしまったからと手ずから日時計を作るような、どこかのんびりとした人柄です。

そして、物語の舞台となった昭和33年4月19日。20世紀最大とされる金環日食が観測されました。

その夜、二人は喫茶店でお茶の時間を過ごします。

「私も家で日食を見ていたわ……。あなたも、どこかで見ているんだなって思いながら……」

「栄子さん、実は僕……、今度助教授になる事が決まったんだ」

「えーっ、本当! すごいわね、27歳で助教授なんて。哲夫さんが優秀でまじめで努力家だったからよ、おめでとう!!」

「栄子さん、僕と結婚してくれないかい? こんな僕で良かったら、きっと君を幸せにしてみせるよ。助教授になったら、君にプロポーズしようと思ってずっとがんばっていたんだ」

その帰り道。星空の下。

「本当は、君と二人で見たかったなあ、今日の日食……。でも次はきっと二人で一緒に見ようよ。この次に日本で見られる本格的な日食は、2012年の5月21日……。今度は、東京でも完全な金環食が見られるんだよ」

「2012年だと、今から54年後ね。私が74歳で、哲夫さんが81歳よ」

「ハハハ、仲良く長生きすればいいさ。その時は僕達の子供や、孫も一緒だね」

先日、私たちが見たものが、ここで語られる“次の”日食です。架空の漫画の世界で、この二人も大勢の家族に囲まれて同じ日食を見たのでしょうか。

現在の私たちは、「生きている間に次の日食を見ることはできないね」と言うしかありません。しかし、それは起き、それを見る人たちがいます。未だこの世に生を受けない人たちが……。

その時その刻の“現在”の積み重ね。それらが空間という横軸とともに、時間という縦軸でも繋がっていることを感じます。

人に歴史あり。