夢を見た

高度数千メートルの上空、音のない世界。空の青は薄く、地の緑は遠い。

ヘリコプターの後部座席に座る私は、動く気配に横を見た。そこには、機体が傾いているわけでもないのに座席の上を滑り、その向こうに何故かドアはなく、外に落ちようとしている“彼女”の姿が。

口から出たのは叫びか悲鳴か。水の中にいるかのような重い身体の鈍い反応に焦りながらも、懸命に伸ばした左手で、何とか“彼女”の左手首を掴んだ。と同時に、“彼女”も私の手首を握り返してくる。

安堵感に包まれ、咄嗟に“彼女”を守った自分に満足し、私は詰めていた息を吐き出した。すると、掌にぬるりとした感触が。焦って強く握れば握るほど、“彼女”の手は私の掌の中からすべり出ようとする。

こんなことがあって堪るか。そう思ったときには、“彼女”は虚空に浮かび、その姿は飛んでいるかのようにヘリコプターから離れ、放物線を描いて地面へ向かい、すぐに小さな点になった。

私は前部座席に座る少女に目をやった。そこに座るのは、親に抱かれた“彼女”の娘か、あるいは小さい頃の“彼女”自身か。

「(キミを見守り続けることができなくて)ごめん。どうか強く生きてくれ」

そう声をかけて、私は身一つで跳んだ。“彼女”を追って。躊躇はなかった。“彼女”を一人で死なせるわけにはいかない。一人で寂しい思いをさせるわけにはいかない。

どこだ。私は懸命に“彼女”の姿を探した。

いない。小さな点すら見つからない。

そして、瞬きをした次の瞬間。私は自宅の近くの見慣れた風景の中で座り込んでいた。

私は泣いた。“彼女”を失ってしまったことに。

私は哭いた。自分だけが生きていることに。

涙は枯れることなく溢れ、喪失感と罪悪感は膨れ上がる。



……という夢を見ました。何だこりゃ。