家族小説

家族を想う気持ちが強ければ強いほど、弱い人間の心は軋みます。そこに生まれる悲劇と希望。

「卑しい生まれだからって卑しくなるわけじゃないよ」と言う少女の尊厳。

「孤児に共通する夢がなんだかわかるか? おれたちの夢なんだ。産みの親が迎えにきてくれるのが。寝ても覚めてもそればかり夢見てた。あってはならないまちがいでおれたちは置き違えられただけで、いずれ誤りが正される時が来るとね」という、主人公の静かな悲鳴。

ちゃちなアフォリズムとは無縁の、肉と骨が語るような言葉。

ジョン・ハートの『アイアン・ハウス』は、エンターテインメントの衣装を纏いながら家族の絆を描いていますが、私には、もっと鋭い問いかけを内包しているように思えて仕方がありません。

「アナタは、アナタが愛するヒトにとって誇れる存在か」と。

「アナタは、家族であることに甘えず、家族でいられるか」と。

アイアン・ハウス (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

アイアン・ハウス (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)