戦う風景

川原正敏の漫画『修羅の門』の新しいシリーズが、“第弐門”として連載されていて、単行本が第五巻まで発売されています。

前シリーズは、主人公が使う“陸奥圓明流”という架空の古武術と現実の格闘技との異種格闘技戦を描きましたが、新シリーズでは、現在のところ、同流他派との闘いと、中国武術の使い手との闘いを描いています。

これは、現実の格闘技の潮流と無縁ではないと思います。

MMA総合格闘技)において、勝つため(あるいは負けないため)の方法論が確立されつつあります。もちろん、“現時点での最新”という注釈付きですが。

その結果、戦い方、スタイルの画一化が起きています。「そんなことはない。そこには個性がある」という意見もあることは承知していますが、それは観る側が習熟してこその視線です。そして、その現象は、まだ格闘技に興味を持っていないけれど、きっかけさえあれば好きになってくれる人たち、言い換えれば新規の顧客、新しい購買層に訴える力を持ちません。

修羅の門』は、その陥穽に陥る愚を避けるべく、現実のMMAとは違うリングの風景を描くことを選んだのだと思います。

予備校講師の細野真宏が『経済のニュースがよくわかる本』を書いた際、その道の専門家は「自分たちには当たり前すぎて解説しようという発想すらなかったことが丁寧に書かれていて、それが世のニーズに合致したことに驚いた。自分たちは自分たちの常識に捉われていた」ということを、反省を込めて語っていました。

著作権の問題もあって難しいでしょうが、過去の名勝負などの動画を扱って、技術的なこと、戦う選手の心理的なことなどをわかりやすく解説してくれるサイトがあれば、新たな種を蒔くことができるのではないでしょうか。

<追記>

とはいえ、興味の薄い不特定多数に情報を発信するには、ネットよりも、やはりテレビに分があります。そのテレビが、啓蒙して新たな視聴者を“作る”気概も余裕もないのは明らかで、何とも歯がゆい。今は草の根運動に徹する時期なのでしょうか。