魂の行き着く場所

犯罪は貧富の差に起因し、人間の平等を実現した共産国家では起こり得ないという絶対のテーゼを守ることを第一義とした捜査は、真実の追究などしません。理想的な共産国家の市民ではないと断じられた者が容疑者になり、逮捕され、事件は収束します。結果、真犯人は逃げおおせます。

連続殺人事件を別々の事件として(上記のように)処理した後、新たに真犯人を追うという行為は、国家への反逆です。

そうして始まった、トム・ロブ・スミスの『チャイルド44』『グラーグ57』『エージェント6』から成る、レオ・デミドフ三部作。

システムとしての国家を維持するための、やはり暴力のみが機能する状況の最前線で、KGB捜査官として、多くの人々の人間としての尊厳を踏み潰してきたレオ。その彼がたどり着いた地平は何処。

地球上で、イデオロギーを理由に他人を殺すのは人間だけだと、何かで読んだことがあります。しかし、一方で、自分の命よりも大切なヒトがいるのも、また人間です。

私たちは、国民として国家に属しながら、家族の一員でもあります。

レオの孤独な戦いは、形を変えた私たちの戦いでもあります。『エージェント6』の終盤、妻の幻に語りかけるレオの言葉。万感の想いを胸に読みました。

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

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