魂の行き着く場所
犯罪は貧富の差に起因し、人間の平等を実現した共産国家では起こり得ないという絶対のテーゼを守ることを第一義とした捜査は、真実の追究などしません。理想的な共産国家の市民ではないと断じられた者が容疑者になり、逮捕され、事件は収束します。結果、真犯人は逃げおおせます。
連続殺人事件を別々の事件として(上記のように)処理した後、新たに真犯人を追うという行為は、国家への反逆です。
そうして始まった、トム・ロブ・スミスの『チャイルド44』『グラーグ57』『エージェント6』から成る、レオ・デミドフ三部作。
システムとしての国家を維持するための、やはり暴力のみが機能する状況の最前線で、KGB捜査官として、多くの人々の人間としての尊厳を踏み潰してきたレオ。その彼がたどり着いた地平は何処。
地球上で、イデオロギーを理由に他人を殺すのは人間だけだと、何かで読んだことがあります。しかし、一方で、自分の命よりも大切なヒトがいるのも、また人間です。
私たちは、国民として国家に属しながら、家族の一員でもあります。
レオの孤独な戦いは、形を変えた私たちの戦いでもあります。『エージェント6』の終盤、妻の幻に語りかけるレオの言葉。万感の想いを胸に読みました。
- 作者: トム・ロブスミス,Tom Rob Smith,田口俊樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/08/28
- メディア: 文庫
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