『いまここに在ることの恥』

“恥”といって思い出すのは、太宰治の『人間失格』の一文です。

「恥の多い生涯を送って来ました。」

本書で、辺見庸は“人間の動作、所作の基本”を基調にしています。

人間に取り扱い説明書はありません。人生の正解を記した参考書はありません。では、人間の基本とは何でしょうか。

士郎正宗の漫画『攻殻機動隊』で、デジタルネットワークの海で自らを生命体と規定したプログラム「人形使い」は、主人公の草薙素子との融合を求めます。「人間の揺らぎに進化の可能性があるから」と。

その人間の“恥”とは、人間が持たざるを得ない“業”なのかもしれません。

そうであるなら、私は、『人間失格』の主人公の“道化”を嗤うことも、太宰治の小説を「若者がかかる麻疹のようなもの」と通り過ぎることもできません。

もう一度、自らに問います。人間の基本とは何でしょうか。

とんでもない難問を突きつけてくれた本です。

いまここに在ることの恥 (角川文庫)

いまここに在ることの恥 (角川文庫)