『音もなく少女は』

ボストン・テランの『音もなく少女は』は、生まれつき耳が不自由な少女、イヴの物語。

ろくでなしの父親と、夫の暴力に怯えるだけの母親。その彼女を救い上げた、凄惨な過去を持ち、心と体の両方に深い傷を持つ女性、フラン。

イヴの母親のクラリッサとフランは親友になり、幸せな関係が生れます。しかし、積み上げるのは大変でも、それを崩すのは容易いもの。いくつもの悲劇が彼女たちを襲います。

暴力と理不尽に満ち満ちた世界。それでも、自らを憐れむことも儚むこともなく、イヴは少しずつ、健やかに成長していきます。そして、フランもまた、それとともに癒されていきます。

愛されることではなく、愛することを知った時。与えられることではなく、与えることを欲した時。救われることではなく、救うことを想った時。人は愛され、与えられ、救われます。

読者を煽ることのない静謐な語り口が伝えてくる、人間の強さと弱さ。そのすべてが愛おしい。

家族は、その出発地点から既に家族なのではなく、不断の努力と想いによって、家族に“なる”のです。

私は……。

音もなく少女は (文春文庫)

音もなく少女は (文春文庫)