『ガラスの鍵』

ダシール・ハメットの『ガラスの鍵』は創元推理文庫版で読んでいましたが、あらためて光文社古典新訳文庫のものを手に取りました。

「賭博師ボーモントは友人の実業家であり市政の黒幕・マドヴィッグに、次の選挙で地元の上院議員を後押しすると打ち明けられる。その矢先、上院議員の息子が殺され、マドヴィッグの犯行を匂わせる手紙が関係者に届けられる。友人を窮地から救うためボーモントは事件の解明に乗り出す。」

主人公のネド・ボーモン(新訳版ではネッド・ボーモント)の言動を、その心理を一切交えず描写する手法。その行間に描かれるストイシズムこそ、ハードボイルド。

ネド・ボーモンが考えていることや思っていることはまったく書かれず、彼の行動は、時としてポール・マドヴィッグの利益に反するかのようでもあります。逢坂剛は、「『ガラスの鍵』は徹頭徹尾、ボーモンのマドヴィッグに対する献身的なまでの友情を描いている」と言います。読者は、ボーモンの行動や表情、仕草から、それを察しなくてはいけません。解説でも“わかりにくさ”に言及しています。しかし、その壁を越えて味わうことができるなら、その風味は絶品です。

ガラスの鍵 (光文社古典新訳文庫)

ガラスの鍵 (光文社古典新訳文庫)