『盗賊』

ハーバード白熱教室講義録』で、“自由とは自律”という論が語られます。自律とは、自分が自らに課した道徳的観念や規範に従うことを指します。当然ながら、この説明では言葉足らずです。念のため。

この“自律”について読んで、三島由紀夫の『盗賊』を思い出しました。

手ひどい失恋に傷つき、自ら命を絶つことを決意した後に知り合った男女。しかし、死後に他人から「失恋して云々」と言われるのは美意識という名の自意識が許しません。そこで、二人は幸せな恋人同士を演じ、その偽りの幻影の中で死ぬことを共謀します。

誰もが羨む美男美女のカップル。その幸せに、失恋の痛手が癒されつつも、二人は自らに課したルールを遵守するが如くに、来るべき死に向かって行きます。そして、だからこそ輝いて見えるという皮肉。

文豪として扱われる三島由紀夫ですが、それと同時に流行作家でもありました。

盗賊 (新潮文庫)

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