らしくないけれど

長谷川穂積が、大差の判定勝利で、一階級飛び越えての二階級制覇を成し遂げました。

華麗なステップを踏み、スピーディーな出入りで相手を翻弄する。静と動。緩と急。そのメリハリでKO勝利を重ねてきた長谷川でしたが、今日の試合、母親の死を承けて、その墓前に勝利を捧げようとの決意が気負いとなり、その両脚をリングに貼り付けました。

そして、相手を力で捩じ伏せようとする大振りなパンチ。解説者から「やっと硬さが取れてきた」と評されたのが第八ラウンド。ポイントで圧倒しながら、追いつめられた者の悲壮感が漂う表情は終始変わりませんでした。

らしくない試合でした。しかし、私は魅了されました。いつも以上にその一挙手一投足を注視しました。

長谷川は、自分の肉体を意識の制御下に置くことができませんでした。精神のブレーキを振り切って暴れる身体、繰り出される拳。その拳に込められた熱い想いが伝われば伝わるほど、私は落ち着かなくなりました。そして、手に汗握りました。

試合後のインタビューでの「勝てて良かった」というセリフは、嘘偽りの無い本音でしょう。勝ちたいという“欲”に翻弄され、本来の自分を見失い、それでもきっちり勝った長谷川は見事でした。

とても人間味溢れる、格闘技を観る醍醐味のある試合でした。