スタイリッシュ

マイクル・コナリーの創造したハリー・ボッシュは、コナリーの友人である作家、“アメリカ文学界の狂犬”と評されるジェイムズ・エルロイの経歴と重なります。エルロイもまた、母親を殺されるという痛ましい過去を持っています。

“暗黒のL.A.四部作”の『ブラック・ダリア』/『ビッグ・ノーウェア』/『LAコンフィデンシャル』/『ホワイト・ジャズ』

アンダーワールドUSA三部作”の『アメリカン・タブロイド』/『アメリカン・デストリップ』/※第三作は未邦訳

これらの作品で有名ですが、私が最も強烈な印象を受けたのは、自身の生い立ちと、母親の死を調査し直したその顛末を綴ったドキュメンタリー『わが母なる暗黒』です。これは立ち読みでなぞる程度でその素晴らしさがわかる類のものではなく、また、エルロイの愛読者しか手に取らないであろう作品です。

堕落した犯罪者同然の生活から、ベストセラー作家へ。その作品は、どれも濃密な情念が渦巻いています。口当たりの良さなど微塵もありません。

そして、映画化された『LAコンフィデンシャル』。その素晴らしさについて、ここで私が贅言を費やすまでもありません。観ればわかるさ。

第一印象はスタイリッシュ。ですが、よくよく考えてみると、美男美女が生活感の無い舞台で格好良くキメている、などという代物ではありません。登場人物の誰もが醜い個人的感情を胸のうちに抱えている、血と暴力と謀略の物語です。

太宰治の『人間失格』が読まれ続けているのは、多くの読者が「ここに書かれているのは自分だ」と共感するからです。映画『LAコンフィデンシャル』もまた、人間の在り様を際立った形でくっきりと描くという意味でスタイリッシュなのかもしれません。卑小な人間世界を描いて格好良いと思わせるのは、まさしく文学です。