コナリー推進キャンペーン2

心の傷から見えない血を流しながら、犯人を追うハリー・ボッシュ。特に母親の異常な死は、彼の心から安らぎを奪い去りました。その孤独な陰影は、作者がその内面を過剰に書き立てなくても、読者にひりひりとした感触を伝えてきます。

一人先鋭化するボッシュに対して、当然のこととして組織は圧力を掛けてきます。組織は組織の正義、言い換えれば体面を守ることを第一義とします。正義の反対は悪ではなく、また別の正義。二つの正義は交わることがありません。

犯人を追いながら、自身が属する組織とも戦わざるを得ないボッシュ。こうして物語は、その展開にねじれを加えていきます。そして……。

内側ではボッシュの心の葛藤、外側では難解な事件。それらに翻弄された読者が最後に体験するのは、驚きに満ちたどんでん返し。これは快感ですらあります。それをストーリーテリングの冴えと表現するのは躊躇われます。技術的に優れていても、作者は決してそれにもたれ掛かっていません。読者を驚かせることを目的としていても、それだけを目的にしてはいません。このバランス感覚が素晴らしい。