リッカルド・ムーティ

彼が指揮するオーケストラに初めて生で触れた時、本物は、聴く者が素人であるなどというハードルを軽々と越えるのだと思い知らされました。

日光東照宮の陽明門は、一箇所だけ、逆柱という不完全な並びの場所を作ってあります。それは「完全なものは滅びるだけ」という発想からのものです。

しかし……。

その隅々までリッカルド・ムーティの“意志”が行き渡った演奏は、完璧という言葉以外に形容できないほど素晴らしいものでした。これが滅びる運命を持っているなどと微塵も感じさせない、圧倒的な完成度であり、訴えかける迫力でした。そして何より、その美しさ。

その演奏に“聴衆”という立場で参加できた幸運に、今も感謝しています。