地べた

私見ですが。

大藪春彦は、日本を舞台にした作品の方が、海外を舞台にした作品よりも凄まじい読み応えがあります。

船戸与一は、海外を舞台にした作品の方が、日本を舞台にした作品よりも訴えかける読み応えがあります。

これは、国家が市民を裏切る様子を目の当たりにし、私ごときが言葉にするのもおこがましいような、筆舌に尽くし難い引き揚げ体験を経てきた大藪春彦と、学生運動華やかなりし時代に、それらに背を向けて海外を放浪していた船戸与一の違いだと思います。

その船戸与一は現在、「満州をまるごと描く」というコンセプトのもと、“満州国演義”シリーズを刊行中です。その第一巻『風の払暁』の冒頭に、序章として、戊辰戦争の後半、会津での戦いの様が描かれています。

その戊辰戦争を描いた『新・雨月』が刊行されました。(現在読んでいる最中ですので、感想を書くことは避けます)

この“満州国演義”シリーズと『新・雨月』で、私の中の、日本を舞台にした作品は云々という考えは払拭されました。ともに歴史小説に分類されますが、他の作家とは一味も二味も違います。読んでいて、“地べた”という言葉が思い浮かびました。

船戸与一を読んできて良かった。そんな至福の時間を過ごしています。


風の払暁―満州国演義〈1〉

風の払暁―満州国演義〈1〉

新・雨月上 戊辰戦役朧夜話

新・雨月上 戊辰戦役朧夜話