私の好きな作家:逢坂剛

逢坂剛の作品で初めて読んだのは『百舌の叫ぶ夜』(集英社文庫)でした。きっかけは、船戸与一が解説を書いていることでした。

活字で描かれた物語を読む快感。お風呂やトイレ、食事の時間すら惜しいという読書を、その時初めて体験しました。それまでも、(船戸作品を含めて)それなりの数の傑作と云われる小説を読んでいましたが、この作品ほど直截に訴えかけてくるものはありませんでした。

逢坂剛は、船戸与一の『猛き箱舟』(集英社文庫)の解説に一文を寄せており、その中で、やはり自分も船戸と同じようにハメットを志向していると書いています。もっとも、チャンドラーも好きであるし、ハドリーチェイスを手本にしているとも。チャンドラーとハメットの特徴を的確に掴み、自身の中で明確に位置づけ、その良さを巧みに作品に反映させる手腕。様々な仕掛けを施し、読者のページを繰る手を止めさせず、最後には読者を驚きとともに納得、唸らせるどんでん返し。読み応えのある長編と切れ味抜群の短編。まさに小説の匠、職人。

ハードボイルドの精神と、読者を楽しませたいサービス精神。一見相反する、その二つが見事に融合しているのが逢坂剛の小説です。