ささやかだからこそ

ボクシングは、相手に対して半身に構えます。これは、第一に相手に晒す身体の表面積を最小限に抑えるため、第二に昨日書いた身体の回転を生むためです。

そして、両腕は脇を絞って“ll”の形にします。この状態から最短距離でパンチを繰り出し、また顎や腹部を覆って防御をします。これがまた辛い。疲れてくると、両腕が“八”の形になってきます。ミット打ちの時、よく「八の字になってるぞ、二の字に構えろ」と注意されます。

疲れてくると、下半身を使い身体の回転でパンチを打つことができなくなり、つい、脇を緩めて大振りのフォームになってしまいます。それはテレフォンパンチと呼ばれ、簡単に防御されてしまいます。

この試合で畑山は、ラウンドを重ねて体力を消耗しながら、さあ行くぞという時、必ず両腕をぎゅっと絞ってから坂本に向かって行きます。それだけで、畑山が本当に基本を疎かにせず、真摯にボクシングに向き合っていることが理解できます。強いはずです。フィニッシュのワン・ツーも鮮やかで、二人のフェアで男らしい振る舞いとともに、ボクシングの素晴らしさが詰まった試合です。