ささやかな抵抗

福井晴敏は話題になった『亡国のイージス』以降、そのすべての作品をハードカバーの単行本で購入して読んでいます。(一冊だけ、映画を扱ったエッセイが文庫で出ていますが)たった一つの例外を除いて。

それは『機動戦士ガンダムUC』(以下『ユニコーン』)です。ガンダムの、より正確には富野由悠季のファンであることを公言している福井晴敏ガンダムを書くということで話題になり、私も期待しました。

全十巻での完結を構想していたということ、大人の読者に手にとって欲しいという意図があったことから、序盤は物語の設定や背景に筆を費やし、比較的ゆっくりとしたペースで話は進みました。そして、第三巻が出た後。

ユニコーン』はキャラクターデザインに、オリジナルの『機動戦士ガンダム』で活躍した安彦良和を起用していました。その安彦良和の降板が突然発表されました。

「今号より、その挿絵を虎哉孝征氏が引き継ぐことになるが、これは突然の交代ではない。本来、挿絵は最初から虎哉氏が担当する予定だったのだが、連載のスタートにあたってキャラクターのイメージを根付かせたいという観点から、安彦氏にこれまで伴走してもらうことになったためである。単行本も無事発売されヒットとなり、また連載も新章に突入するこのタイミングで、『本来の形』に居住まいを正すこととなった。」

雑誌編集部によるこの一文を読んだ瞬間、私は『ユニコーン』を読むことを止めることにしました。

ユニコーン』はそもそも、執筆に福井晴敏、キャラクターデザインに安彦良和メカニックデザインカトキハジメ(最近のガンダムのデザインで人気のデザイナーです)と最高のスタッフが集結したという売り文句でスタートしました。虎哉氏の名前はどこにもありませんでした。

上記の文章は矛盾を抱えています。虎哉氏が挿絵の正式な担当者だと言いながら、力不足で製作者側の要求するレベルの仕事ができないとも言っています。これは虎哉氏への侮辱です。

大半の読者はすぐに、安彦良和が同じ雑誌に『機動戦士ガンダム ジ・オリジン』を連載しているので、当初の予想以上に負担が大きくなってしまったための交代だろうと察しました。

それを、こんな口先三寸で丸め込めると思われたとは、読者もなめられたものだと寂しくなりました。私(読者)を一人の人間として認めない相手に、読者(私)に誠実に接しようとしない相手に金を払う謂われはありません。

最近、『ユニコーン』が文庫化され始めました。通常の角川文庫とスニーカー文庫の両方からの発売と、商魂たくましい様子を「さもありなん」と眺めています。角川文庫版では挿絵がなくなり、スニーカー文庫版ではまた別人のイラストが挿絵として使われています。“本来の形”はどこへ行ったのでしょう?