私の好きな作家:高村薫

硬質な文体と、精緻な描写。そこには、読者に委ねるという妥協はありません。逢坂剛高村薫の『リヴィエラを撃て』を評して、「この作品は知的に挑戦的で、一度読んだだけで理解できたという人がいても、私はそれを信じない」と書きました。

夢枕獏に『魔獣狩り』に始まる“サイコダイバー”シリーズがあります。サイコダイバーとは特殊な装置を通して他人の意識に“潜る”能力を持つキャラクターです。高村薫の作品を読むということは、“著者の視る世界”に入り込む作業であるかのようです。

私は車にぬいぐるみをたくさん並べたり、着飾ったりすることが好きではありません。車の魅力とはメカニズムの美しさです。一台の車を作るのに三万点以上必要と言われる大小様々な部品が組み合わされて機構を形作り、互いに作用しあってその能力を充分に発揮する、機能美。高村薫の作品を読むと、このようなイメージが浮かびます。

これは銃と車をこよなく愛した大藪春彦の影響です。大藪作品ではその銃や車の構造や機能についての事細かな説明がページをびっしりと埋めていることが当たり前です。大藪春彦は探偵作家クラブの特別賞(でしたか)を受賞した際、多くの作家達を前にして、「この中に私の影響を受けていない作家はいない」と挨拶して喝采を浴びたそうです。私の個人的主観と思考が加味された牽強付会な発想ですが、高村薫もまた“大藪春彦の子供”の一人ではないでしょうか。