私の好きな作家:五味康祐

井上雄彦の『バガボンド』が売れていると耳にした時、ならば五味康祐の作品が売れる素地はあると思いました。

日本浪漫派の詩人、保田與重郎に師事した五味康祐の書く文章は漢文調で格調高く、その手で描かれた剣豪小説は、武士道という言葉では捉えきれない程の、日本人の精神的文化を表現しています。

小池一夫の劇画『子連れ狼』において、柳生義仙が率いる“裏柳生”と呼ばれる忍び集団が登場しました。柳生と忍びを最初に結びつけたのも五味康祐でした。その作品『柳生武芸帳』は柳生宗矩と十兵衛を中心としながらも、特定の主人公を置かない群像劇で、徳川家の剣術指南役にして総目付けの役職につく柳生を皇室とも結びつけ、壮大な広がりを見せます。未完ですが、それが相応しいとすら思える作品です。

柳生といえば五味。五味の柳生もの。五味康祐は剣禅一如ならぬ、剣文一如です。