『暗殺者の反撃』
マーク・グリーニーの『暗殺者の反撃』は、シリーズを通しての密度の濃い冒険小説として高い水準を保ちつつ、そこに陰謀を解く謎解きの要素を加えた、一読巻を置く能わざる一気読み本です。冒険小説が好きと自認するなら、これは外せない一作です。
と同時に、アメリカで書かれる冒険小説はハリウッド的にならざるを得ないのだなとも思いました。
暗殺者を扱うのですから、その背景として公的な諜報機関が出てきます。この作品の場合、CIAです。
当然ながら、読者が感情移入して読み進められるよう、主人公は正義の側にいて、彼と対峙する相手が悪役になりま。そして、その悪役はCIAそのものではなく、組織を私物化している人物と設定されます。
つまり、主人公の正義が侵されているのとき、国家の正義もまた同様に侵されているのであり、戦いの末に主人公の正義が回復するとき、国家の正義もまた同時に回復するという構造になっています。
そうなると、結末はハッピーエンド以外にあり得ません。なぜなら、主人公にとって幸せな結末でなければ、それがどこであれ、国というものに属している読者や視聴者も幸せになれないからです。
こう書くと、本作を含むシリーズを否定しているように思われるかもしれませんが、決してそうではありません。読み応えのある堂々としたシリーズであり、作品です。
ただ、例えば映画『シン・ゴジラ』で国難に臨む官僚の姿が(もちろん正義として)描写されて、それを肯定的に評価する声が多いのですが、前の戦争の末期、満州において、終戦の直前に一般市民を放置して自分たちだけ先に引き上げた(逃げ出した)のもまた高級官僚の皆さまだったことを併せて考えると、国の正義と、そこに属する喜びをストレートに表現されることに抵抗を覚えます。
すべては、その人の資質に還元されるのであり、その集合体が組織ということでしかないと。
- 作者: マーク・グリーニー,伏見威蕃
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/07/22
- メディア: 文庫
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