怒り

ひろさちやの『日本仏教史』には、現在の日本社会における仏教の在り方に対する著者の怒りが横溢しています。その論点は決して「葬式仏教」だけではありません。

昨今の政治と社会の状況に危惧を抱く人は多くいて、仏教の世界からも様々な宗派、団体が声明を発表したりしていますが、では、それが果たしてどれだけの影響を与えているか、変化をもたらしているかと問えば、小波ひとつ立っていないというところではないでしょうか。

その現状と事実を前に何も出来ずにいる仏教界への失望と怒りが直截に語られていて驚きました。ここ十年くらい、「既存の価値観に捕らわれるな」という趣旨の本を何冊も書いていて、ちょっと傾向が変わってきたなと感じていましたが、この本を読んで腑に落ちました。

それでも、著者は仏教そのものには失望していません。仏教を学ぶのではなく、「仏教“を”生きる」ことを説く言葉に迷いはありません。

わたしたちと同じように日々の暮らしのなかで迷い、苦しみ、それでも今日を明日を生きた僧たちの思索の旅を追いかけることは多くの示唆を与えてくれます。

日本仏教史 (河出ブックス)

日本仏教史 (河出ブックス)