現代の西部劇

家族の絆を描いて、比類なし。

その中心にいるのは、家族にとっても、仕事においても決して完全無欠のヒーロー“ではない”、猟区管理官のジョー・ピケット。

しかし、完璧でなくても、ジョーは家族に対しても仕事に対しても、決して手を抜かず、どこまでも誠実であろうとします。

人は、自分に対して本気になってくれる人を受け入れます。そして、本気を返します。

その積み重ねを描くシリーズも巻数を重ね、ジョーの二人の娘も大きく成長しました。

この『ゼロ以下の死』で、聡明な妻の存在が欠かせないジョーの人生において、それに負けず劣らず娘たちも存在感を増してきました。

これまでは庇護すべき小さな女の子であり、その言動はジョーを感動させたり驚かせたりするものでしたが、もはや交わす会話も対等で、子供として扱う相手ではありません。

その、妻と二人の娘を一人の個人と認めて接するジョーの態度は素晴らしく、だからこそ家族も彼を愛するのです。

その一方で描かれる、ジョーが追う犯罪者の父親と息子の破綻した人間関係が哀しい。それもまた、決して珍しくない家族の在り様です。

そのように家族小説の一面を持ちながら、今回は読者に対するミスディレクションもあり、エンターテインメント小説として読者を楽しませる“現代の西部劇”の読み応え。そして、静かな余韻を漂わせるラスト。

これは大人の読み物です。

ゼロ以下の死 (講談社文庫)

ゼロ以下の死 (講談社文庫)