影法師の物語

月村了衛の『影の中の影』を読みました。中国の新疆ウイグル自治区の問題を背景とした活劇小説です。

その「同時代と伴走する」姿勢に、いまは亡き船戸与一が重なります。

そして、登場人物たちの内省は最小限にとどめ、その行動を描く手法は、正しくハードボイルド。

個人の活躍で解決できるのは、個人的な領域のことに止まります。それ以上の規模になったら、人の集団としての組織の存在を抜きに事態は動きません。

その苦みを噛みしめながら、一方で心が救われる人たちもいて、それは、からからに乾いたタオルを捩じって絞り出された(ないはずの)一滴の水のようで、非情な乾いた物語世界を少しだけ潤してくれます。

その積み重ねの先に、もしかしたらゴールはあるのかもしれない、ないのかもしれない。それでも歩いていくのだという気概を行間に秘めた、読んで良かった一冊です。

影の中の影

影の中の影