ハードボイルドは死んだ

レイモンド・チャンドラーの『高い窓』の旧訳版を読んだとき、物語世界に入り込むことができず、斜め読みで済ませてしまいました。ということで、村上春樹の新訳版は仕切り直しの再読となりました。

謎解きを主眼とした推理小説をリアリティに欠けるパズルであるとして、ハードボイルド小説は生まれました。しかし、その死は、『プレイバック』で大略「優しさが強さである」と言う遥か以前、長編第三作の『高い窓』で訪れていました。

この作品で、フィリップ・マーロウは、私立探偵としての社会的地位を守るため、有り体に言えば保身のため、自分が依頼内容と事件の背景を警察に報告することを認めるよう依頼主に圧力を掛けるのです。

事件はマーロウの与り知らないところで進展し、そのようなことにはなりませんでしたが、それは結果論に過ぎません。

このとき、ハードボイルドは死んだのです。

以降、隆盛を誇ることになったのは、ハードボイルドと似ておらず非なるもの、チャンドラリアンの小説です。

高い窓

高い窓