『土漠の花』2

『土漠の花』は冒険小説です。その描写の眼目は登場人物たちの内省ではなく、行動です。

そのきびきびとした展開のなかで、登場人物たちは気持ちや想いを縷々語ったりはしません。そんなことに時間を費やしていては死あるのみ。

しかし、人が人であろうとするとき、心が支えになります。

大藪春彦の『野獣死すべし』の伊達邦彦は、己の物欲を満たすために他者に牙を剥いていたでしょうか。船戸与一の『猛き箱舟』の香坂は、『山猫の夏』の山猫は……。

『土漠の花』の自衛隊員たちは、仲間の意を汲み、慮ることを疎かにしません。そして、自分がすべきこと、為すべきことを遂行します。それこそが誇りです。その誇り高き姿こそが、この作品の読み応えであり、醍醐味です。

次の作品が待ち遠しい。そう思える作家です。

土漠の花

土漠の花